久しぶりの投稿は今日観た映画について。
「空飛ぶタイヤ」
池井戸潤さん原作、初の映画化。
といっただけで「まあ外さないだろう」という感じなんですが、ちょっと売り出し方が微妙で…(カッコいいポスターにゴテゴテと色々書いたりして…)、若干の不安はあるにはありました。
ですが、映画として非常に真摯な造り。作品の強度と役者の強度も相まって、見ごたえのある映像空間でした。
池井戸作品らしく、「勧善懲悪」「大逆転劇」が本作の大筋なんですが、正直に言えば「スカッとした!!!!!」みたいなのを求めに行くと結構苦しい作品だ……と思いました。
(まあそもそも、池井戸作品の密度を2時間に纏めた時点でしんどいのは当たり前なのですが、)
そのしんどさの理由の1つが、人命が関わっているという点。
本作は「タイヤ脱輪に巻き込まれた死亡事故の原因究明」という大筋なのですが、死亡事故という出来事に端を発しているため、ありがちな「大企業とのバトル」「銀行マンとのバトル」に一層の重みが増します。
今までも、映像作品で言えば例えば「下町ロケット」の「ガウディ計画編」で人命が奪われるという出来事がありました。しかしそれは100%敵サイド(この言い方が正しいかはともかく)の落ち度。
今回は、主人公サイドの赤松運送が「悪役」と疑われている。
それにより、「遺族とのバトル」という救いの無い状況が生まれてしまう。誤解だとわかっているからこそ、余計に精神的にキツい。特に四十九日の場面における、遺族の悲痛な叫びには胸を打たれました。
「家に帰っても家族がいない、そのことを自分の立場で考えたことがあるのか!!」
……こういう旨のセリフだったと思います。これにはハッとさせられました。
確かに、これだけ死亡事故や事件が巷に溢れていても、「身近な人間の命が奪われるという現実」を想像することは、非常に難しい。それが、加害側(かもしれない)という状況にあってさえ……。
もちろん、最終的に事件そのものや遺族とのわだかまりは解決へと進んでいくのですが、最後のシーンまで「人の命が奪われた」ということを意識させられる演出になっていて、本当に作り手の真摯さに拍手を贈りたい。
他に興味深かったのが、徹底して「見えない相手」と闘い続ける話だったこと。
そのテーマ自体は隠されているわけでもなく、主人公の妻が「子供の学校の裏サイト」と闘っていた場面でセリフ的に明示されるのですが。
フィクションでこういう話だと、最後は「社長v.s.社長のガチンコ頂上決戦」になりがち(※個人の意見)です。しかし主人公側(赤松運送)が会った、いや会話した敵側(ホープ自動車)の最高役職は「課長」止まり。しかも虚偽や隠蔽の当事者ですらない、という、振り返ってみれば驚きの構成。
もっと言えば、ホープ自動車側の主人公サイド(ディーン・フジオカ)ですらそうです。隠蔽工作をした品質保証部には度々アクセスしているものの、諸悪の根源である取締役とは、すれ違い際の一度しか対面していない。
「銀行」「遺族」「不満を持つ部下」「相手の販売部の課長」あるいは「自分の会社の部長や同僚」という目に見える相手は、事件の原因では無い。
「事故の本当の原因」「大企業の中枢」という目に見えない相手が、真相。
だからこそ、このストーリーはますます苦しい。
そうそう、日常でも、得てして「見えない敵」の方が精神的に苦しめてくるものなんだよ……と。
そう言えば、事故の原因、という部分で。
一応原因はセリフで明かされるのですが、当然専門用語が出てきます。池井戸原作のテレビドラマではしばしばテロップや図解が出てくる場面ですが、この映画にはそれが一切無かった。
これは一つの英断だったな、と思います。
ドラマより時間的制約が厳しいこと、また観客がみな没頭して世界観に入り込んでいることを思えば、作品の流れを乱さないためのこの選択は正しかった。ある程度理解してくれると観客を信頼している部分もあるのかな?映画ならではですね。
もちろん、具体的に分からなくても(かくいう自分もニュアンスしか分からなかった)、雰囲気が充分伝わるという作りにはなっており、とても丁寧です。
他にも「ものづくりの結果は人命と繋がってしまう」ということを意識したり(一応自分も理系技術者の端くれなので)、「会社を辞めるということ」「社長と社員との距離」について考えたり、様々なことが胸の中を去来しております。
いやー、面白いだろうとは思っていましたが、想像のさらに上でした。
働くということ、そして命について、真面目に思考するいいきっかけになりました。
ちょうど今後のキャリアパスについていろいろ考えている時期だったので、良いタイミングで見ることができたな、と思っています。
(P.S.)
長瀬とディーンのラストシーン、カッコ良すぎません??
からのサザンのED曲の流れがあまりにカッコ良すぎません???
それを体感できただけでも価値がありましたので是非。いやマジで