ジンジャー・エールの生姜率

勢いで始めてしまったブログ。旅行や小説や音楽を語るともっぱらの噂。

ぶらり街歩き[1] さよなら、上大岡


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ビルとお空と京急と。いちばん好きだった景色。

 

その1からいきなり「さよなら」だなんて、自分でもどうかと思うけれど。

街歩きが趣味の自分が、いつかブログに書くなら、この場所からにしようと決めていた。

 

 

少し前、自分は上大岡という街から去った。

就職してすぐに、会社の指示で住み始め、2年半ほどを過ごしてきた土地だ。

 

上大岡は横浜市港南区にある、横浜の副都心的な扱いの場所。

みなとみらいには電車で10分、しかも港南区という名前で、副都心。洒落た海沿いの街かと思いきや、海との間には、あまりにもあまりにも高い丘がそびえ立つ。

 

 

横浜市は、実は坂が多い都市だ。

しかしその中でも、ここの丘は本当に傾斜が激しい。

駅の東側には近辺で一番キツイ坂もあるとのことだ。その角度、なんと16.5度。雪さえ降ればスキーでもできそうだ。

(参考) https://hamarepo.com/story.php?story_id=426



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上大岡の坂道。こんな道がいくつもあるから洒落にならない

 

そんな丘の麓、駅の周りに発達した街が、いわゆる副都心の部分。

京急百貨店、ヤマダ電機、映画館、複合商業施設、……普段の生活に必要十分なものは大方揃っている。

自分もその恩恵に預かった身だ。パソコン、スニーカー、人へのちょっとしたプレゼント……。確かに、便利な街だった。

だけど、便利なだけの街、でもあった。

 

良い点

(1)駅の近くで生活が全て完結できる

(2)京急と地下鉄の2路線が使え、どっちも全車停車駅

(3)少し行けば飲み屋や洒落た店もある

 

これだけ揃っていて何がご不満?と言いたくもなるだろう。

その証拠に、2018年の「関東住みたい街ランキング」では67位、あの大井町や代官山より上と来ている。

https://suumo.jp/edit/sumi_machi/2018/kanto/smp/

 


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駅の西側は飲み屋街。なぜかこの辺りは焼鳥屋が多い

 

正直に言おう。他の土地へのアクセス性だけは本当に素晴らしいと思っている。

つまり、上大岡という街そのものへの魅力が問題。住むうちに、次第に薄れてしまったのだ。

 

まず、無駄に人が多すぎて辟易する。

みんな素直に横浜に出ればいいのに、休日になると人がわんさか。特にファミリーが目立つのがこの街の特徴。飲食店がどこも混む。

商業施設「カミオ」にあるマクドナルドはいつも混んでいるから、一度も入ったことがない。その割に大通り沿いのロッテリアはいつも空いていて、変なの、と思っていた。まあエビバーガーファンの自分はホクホクだけれど。

また、駅周りしか発展していない、という歪さがそれを助長する。駅近にばかり人が密集し、分散されないのだ。戦後に発展させた街なのに、なんでこう半端に作ったのかな、と何度思ったことか。


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上大岡駅前はいつも多くの人が行き交う

 

次に、坂の存在。

暮らし始めた頃は、坂だろうが丘だろうがあちこち歩き倒していた。

何せ初めて来た街。そもそも街歩きが好き。それに仕事のまだ少ない新入社員だ。平日仕事上がりに坂道ランニング、なんてこともしていた。

だけど、そのうち仕事は残業だらけに。疲れ果てた週末、朝起きれば窓の外にそびえているゲレンデのような坂を見て、「ん〜いい天気だな〜今日も登るか〜!」となるだろうか。少なくとも自分はそういう人種では無かった。大人しく駅に足を向け、237円をPASMOで払い桜木町へ行こう。

 
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しばしばコラボをする京急。少し前にはここも「上ラオウ岡」になっていた

 

 

地味に痛いのが、こんなにアクセスが便利に見えてJRが遠い点。

横浜のJRと言えば、東海道線京浜東北線。どちらも主要な街やその近郊の多くを結んでいて、休日に使う頻度は高いけれど、結局横浜駅まで出ないと行けない。ゴミゴミしていてあの駅は好きではないので……。

近辺の似た条件の街に大船や戸塚があるけれど、東海道線があるのはやはりとんでもないメリットだと思う。東京23区へ楽々、鎌倉にも行きやすい。もし住むなら絶対そちらの方がいい。(ただし、車内混雑には目を背けながら。まあ京急上大岡も結局混むけれど)

 

 

ゴタゴタと並べてきたけれど、たぶん、自分が一番虚しかったのが、

こんなに大きい街なのに、ここには何も見るべき場所が無い、多少価値のある場所は行きづらい、という事実だ。

 

歴史的スポットは、「ペリーが来たときに人々が見物した丘」だけ。……なんじゃそりゃ。

眺めは確かに良いけれど、坂の上だし、お墓の前だし(写真自粛)、一度見れば「ふーん」で終わってしまう。

憩いの場所すら少ない。

あるにはある、久良岐公園や、戦没者記念堂の辺りなんかはとても雰囲気が良い。

どれも、見事に坂の上だ。

お隣の弘明寺駅みたいに歴史の深い名刹がある訳でもなく、大岡川の桜がきれいなのはもう少し下流……と、とことん微妙。

歴史の重みや名所も無く、坂に囲まれた街で暮らす休日。残業まみれの平日と合わせれば、「ただ、自分は街の便利さだけに生かされている無に近い存在」。

それを打ち消すために、電車で10分の関内や桜木町、逆方面に30分の逗子や鎌倉や江ノ島をしょっちゅう訪ねていた。名のある街へ、逃げていた。

何せ、アクセスは、良いのだ。


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神奈川県戦没者慰霊道。春は桜の名所。色々配慮して無宗教な作りとのこと

 

だけど、もしかしたら、と思うこともある。

あの街は、ファミリーになら良いのかもしれない。

街がコンパクト。本屋も服屋もなんでもある。映画館もあって、こっそり飲みたいお父さん向けの飲み屋までたくさん。頑張って坂を登れば大きい公園だ。

それに、ファミリーなら街の面白さなんて二の次だ。誰かと過ごす日常がそんなものを覆い隠していく。

結局、1人で長く住み続けるには向かない街だった、というだけなのかもしれない。

 
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この林の向こうが久良岐公園。野球場をはじめ広大な土地からなる。戦争末期か戦後かには人々が避難してきていたとか

 

 

ああ逗子へ引っ越したい、せめて金沢区、なんて思っていたけれど、色々あって、結局今は違う街で生活を始めている。

……どこにいるかは言わないよ。

だけど、暮らしてきた街というものを改めて振り返ると、どうしても愛憎ない混ぜにして見てしまうんだな、と気が付いた。

それは、大した仕事の実績もなく、独身として孤独な時間を一緒に過ごしていた、家族のような存在だからかもしれない。

 

色々文句は言ったけれど、いい記憶だってたくさんある。

入社1年目の春、駅の東側に見かけたきれいな桜に心躍らせたこと。

初めて坂を登りきった日、圧倒的な夜景に見惚れてしまったこと。

トンネルの中にくぐっていく京急を見下ろしながらランニングしたこと。

「赤い風船」で友人たちと夜中まで遊び倒したこと。

ある日の朝、ふと電車から富士山らしき影が見えたこと。

 

いつだって、あの街はそこにいた。

客観的に、冷静に見ることなんて、出来やしないのだ。


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上大岡の住宅街。奥に見えるのは、今思えばたぶん富士山

 
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赤い風船は複合遊戯施設。ゲーセンもパチンコもボーリングもある。バッティングセンターは安いけれど、マシンが古くて時々ビーンボールも投げてくるのはご愛嬌

 


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京急百貨店の屋上。景色はそこそこだけれど、広々として知る人ぞ知る憩いの場。楽器が練習できそうだと気付いたのは引っ越し当日だった

 

 

引っ越した今、もうあの街を訪れることはそうそう無いだろうな、と思う。

だって、何も無い街だ。

友人と会うのだって、横浜まで出た方が店の選択肢も増えて絶対に良い。

 

 

だけどもし、何かの機会に訪れることがあるとしたら。

そのときまでには、街に頼らなくてもいい自分になっていたい。

うだうだ言い訳をしないでいい、何者かとしての自分になって、堂々とあの街へ挨拶をしにいこうじゃないか。

  

 

だから、いつか来るその日まで。

さよなら、上大岡。


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