ここのところ、地震、大雨、洪水、大変なことになっている日本列島。
先程も関東地方で大きめの地震がありましたね……。
どうか一刻も早い平穏の日々を、と思わずにはいられません。
そして今日は7/7、七夕。
……天気も悪い所が多く、星空は望むべくもない、という感じだとは思いますが。街のあちこちに飾っている短冊が少しむなしく見えてしまう。かなしい。
(というか確か7/7って比較的雨が多い日なんですよね確か…。まあ旧暦の七夕は8月なので、という話なのでしょうが)
だけど、気分だけでも感じたいもの。
私は吹奏楽をやっていた身なのですが、毎年、7/7の夜に聴いている曲があります。
The Seventh Night Of July [たなばた] 作曲:酒井格
(参考演奏はとりあえずプロのもので。普段は尚美の音源を聴いています)
いや、もう吹奏楽やっている人間には紹介することもないくらいメジャーな楽曲ですね。(レビュー:完)
かいつまんで紹介すると、
酒井格さんは、日本を代表する吹奏楽作曲家。春の甲子園の入場行進曲(J-POPとか流れてますよね)は毎年この人がアレンジをしている、というくらいに凄いお方。
本楽曲は、その彼が高校生のときに作った、文字通りの処女作。
そのため所々に(オーケストレーションなど)不慣れさが滲んでいますが、それを物ともしない美しい旋律と劇的な展開が魅力的な楽曲です。
詳しいことは、本人が非常に詳細に語ってくださっているので、そちらを参考に......と思ったらリンク切れしてる!?なんとまあ……
(一応、楽曲まとめのページだけリンク……)
http://ismusic.road.jp/works/welcome.html#wind
ところで、なんでこの楽曲がこんなに親しまれているんだろう?と改めて。
実際、演奏効果は特段高いという訳ではありません。確かにキャッチーで聴き映えはしますが、やや響かせにくい所があるし、結構どのパートも体力が必要だし、ソロは簡単ではないのにミスると顰蹙だし……。
まあ、今更という部分ではありますが、せっかくなのでまとめてみました。
1. どの楽器にも魅せ場がある
オプション楽器(という言い方もアレですが…)を除いて、どのセクションにもソロorソリが存在している。
これ、結構珍しいことなんですよね。まあ、20分超えの交響曲とかならどのパートにもソロがある曲は多いのですが、吹奏楽という世界で長い曲は割と希少な存在。
特に「たなばた」と同じように学生人気が高い曲なんかだと、パート間格差があるのはままあること。
私はクラリネット出身なのでそこまで感じたことはないのですが、某ライ○キーの人気曲のトロンボーン譜を見たときは「図形かな?」と思いました(7,8割ほど同じリズム打ち)。
また、サックスやトランペットは花形なので、ソロを沢山経験できますが、ユーフォやチューバなどでは滅多に機会がない。また、金管が目立つ曲は木管が不遇、木管が目立つ曲は金管が暇、などもよく起こる現象。だから選曲で揉めて、揉めて、、、(遠い目)
と、まあ、こういう曲があれば、みんな見せ場があってハッピーなのです。
2. 初心者でもギリギリなんとかなり、熟練者も楽しめる難易度
吹奏楽は学校の部活動が主体の世界です(現状は)。
そうなると、本当の初心者でも半年や1年でコンクールや演奏会に出なければならない。選曲する立場の人は頭を悩ませます。あまりに難しい曲だと初心者には無理だし、簡単すぎても小学生からやっている子にはタイクツだし……。
確かに、前述の通り、体力が必要かつ部分的に難しい曲です。だけど、例えばクラリネット3rdなんかだと音域も比較的マシで、上級生にカバーしてもらいながらなんとかできるレベルです。
その一方で、1.で書いた通りに見せ所が多く、それが特に音色・表現面という経験が物を言う部分なので、ある程度の熟練者でも楽しく演奏ができます。
そういったバランスが取れている。おかげで、社会人団体=経験者の集まりでも「気軽に楽しめる曲」として親しまれているのです。
……それに、アルヴァマーを始め、あちこちの「遊び心」は経験者の方が分かりますしね(笑)
3. 伸びやかな歌心、挑戦的なコード
そうはいっても、一番の魅力の一つは「キャッチーな旋律」でしょう。
「キャッチーさ」って、なんでしょう。
基本的にメロディーは「歌系」「踊り系」に分けられると思うのですが、この曲は間違いなくほとんどが「歌系」。
「歌系」の旋律のキモは「二度進行」と「飛ぶ所」のバランスだと(個人的に)思っています。
この曲はそれが非常に良い。
第1主題、最初の8小節を例に取ると、最初の「B♭→E♭」、3小節目の「B♭→G」しか「飛び」は無く、他は全部「二度進行」が主体です。
しかも2箇所の「飛び」はいずれも2部音符=「エネルギーを貯めて飛べる」。一方で「二度進行」は8部音符が主体=「旋律の流れを作る」。
この絶妙なバランスが、「あっ、キャッチーだ」「歌いやすい」という感覚を生み出しているのだと思います。
一方、コードについて。
基本的にはE♭。この時点で「フラット系の得意な吹奏楽器に合う」かつ「甘い音楽に合う」調性、という適役なのですが。
あ、E♭の曲=甘いというのは、「ショパンの『ノクターン』」「エルガーの『ニムロッド』」などから分かるかと思います。あえてそういう例だけ挙げています。
この曲の良いところ。例えば有名なサックスソロの最初のコード、いきなりMaj7から始まります。ジャズの常套句のようなコードなので、「おしゃれ〜」という感覚になること請け合いです。
また、中間部〜再現部の部分転調の繰り返しは、彩りながらマンネリ打破と緊張感を作っていますし(なんとなく、カラフルな花火を思い浮かべます)。
何より個人的なツボは、全音音階。
吹奏楽オリジナルでは非常に珍しい。というか吹奏楽やっていて、オケ編曲以外ではNSBの「ジュ・トゥ・ヴ」(サティ作曲、宮川彬良編曲)でしか見た記憶がありません。
ユーフォソロ直前の地味な部分ですが、いや個人の話になってすみませんが、自分はこの部分で全音音階の基本的な使い方を覚えました。ああそう使えば効果的なのか!!!と。
……気になった方はスコア見てください(投げやり)
こういう作曲者の「挑戦」が、「新鮮」「鮮烈」となり、聴いた者の心を掴んでしまうのです。
4. そして、結局みんなストーリーを求めている。
うだうだ書いてきましたが、これに尽きるんですよね、結局。
高校生が書いた曲。
きっと同級生や、気になる異性を想像しながら書かれた曲。
「たなばた」という、皆が知っているロマンティックな題材。
織姫と彦星、と称されるA.Sax & Euph.のソロ。
木管の連符でさえ、流星群や天の川の煌めきのようだと語られる。
これ以上無いほどに、物語に満ちている。だから演奏したくなる。
みんなが楽しめて、みんなで楽しめる、願いを叶えてくれる音楽を。
そして、それが広く共有され、また次の代へと繋がっていき、演奏され続ける。
この入れ替わり立ち替わりが激しい吹奏楽という世界で、キャッチーで楽しいだけの曲では長く生き残ることはできません。
それだけの理由を持っているのが、この「たなばた」なんだと思います。
かくいう自分も、吹奏楽を始めてから十数年。
そのときから毎年必ず、7/7に「たなばた」を聴いています。
きっと、こんな風にあれこれ理屈を並べている自分も、この曲に物語を求めているのでしょう。
素敵な出会いを。多くの祈りを。
みんなの耳にも、夜空の物語を。
7番目の夜、雲の向こうの夜空に向かって。