ジンジャー・エールの生姜率

勢いで始めてしまったブログ。旅行や小説や音楽を語るともっぱらの噂。

ぶらり街歩き[2] 逗子、あこがれの海



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リビエラ逗子マリーナの裏側から。オシャレな施設の裏側は至ってほのぼの

 


前回の上大岡の記事でも少し触れたけれど、かつて私は逗子という街に憧れていた。いや、今でも?

 

神奈川県の南東。いわゆる湘南エリアに属している。具体的には鎌倉の東側、三浦半島エリアとの境界に位置する。

隣の葉山町と合わせて「逗子・葉山」で一括りにされることも多い(葉山はまた別途触れるかも)。

穏やかで、でも程々に便利で、そして太平洋が傍にある場所だ。(※厳密には相模湾)

 

私の憧れ。何はともあれ海だ。

残念ながらサーファーでもガングロギャルでも無いけれど、ただただ、海沿いを歩くのが好きだ。

場所柄、鎌倉の七里ヶ浜や、江ノ島近郊の片瀬海岸に比べて、比較的人が少ない。春や秋なんかにぶらりと人の少ない海岸を行く、それが本当に心癒されることだった。

夜になると、満天とはいかないまでも、それなりに星を見ることもできる。特に南向きには遮るものが無く、ただただ波の音と共に佇むことができる。

まあ、夏は、昼も夜も当然人が多いんだけど……。



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石原慎太郎は逗子ゆかりの人物。ちなみに訪れたのは夏真っ盛り、夜でも若者たちは賑やかだった。

 

 

そして、海が街から近いという利点。

JR、京急、どちらからでも難なく歩ける距離。仕事帰りにそのまま海、あるいは通勤前に、なんてことも、たぶん可能だ。

  

その街も、最低限のものは揃っている。

スーパー、100均、本屋、チェーンの飲食店。役所だって駅から近い。それに近年はちょっと洒落たお店も増えている。休日のランチやディナーも色々と楽しめることだろう。

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逗子市役所。この日は隣の亀岡八幡宮でお祭りだった。


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街角で見かけたオシャレなお店。Think Globally, Act Locally

 

ここからは、地元民じゃないとなかなか味わえないだろうな、というエリア。

(……つまり、1日で見て回る分量では無いな、ということ。行ったときはめちゃくちゃ疲れた)

 

まずは、リビエラ逗子マリーナというリゾートチックな施設。


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さながら海岸のリゾートのような空間。

クルージングも、結婚式もできる。

そんな物に用はない自分のような一般庶民も、歩いているだけで束の間の高級リゾート感になんとなくウキウキする。


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こんなフォトジェニックな光景も見られる。 というより、写真を撮るために訪れたような方が何人もいた

 

その近くには材木座海岸

公共交通機関はバスしかなく、穴場としてよく紹介される海岸だ(それは穴場なのか、という問いは……まあ、うん)。


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向こう岸が材木座海岸。結構人がいるような。 

 

 

そして、披露山公園

この展望台が醸し出す、ノスタルジーと言ったら。

 


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ただ、この周辺のツッコミどころがどうしても気になってしまうのは悪い性……。


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なぜ猿が……??

 

もし、住むとしたら。街は先述の通り最低限整っているし、通勤だって大丈夫。

湘南地域の海沿いの街では、実は屈指の良アクセスを誇る。

 

JRは湘南新宿ライン直通、品川まで1時間以内。始発も運行しているから座れる可能性もある。大船や横浜で乗り換えれば、行き先はさらに広まる。

ちなみに、隣駅は鎌倉だ。「鎌倉が定期圏内」というワードだけで、なぜか強烈に痺れてしまった1年前の自分。

まあ実際、タダで鎌倉観光に行けるのは凄い。

 

またJRが止まっても、京急逗子線がある。こちらもなんと始発駅、急行も出ている。快速は金沢八景金沢文庫、上大岡で乗り換えればOK。

休日でも、金沢八景(シーサイドライン)〜金沢文庫という、これまた自分の好きなエリアが近くて魅力だと思っていた。

 

敢えて難を上げるとすれば、山と海の間の街なので、災害時が不安なこと。そしてあまり住む場所が無いこと。

前者は湘南の宿命みたいなものだからともかく、後者は本当に惜しい。

実際、賃貸を探したこともあるけれど、なかなかいい条件を見つけるのは難しく思えた。

そして安いと思ったら、山の中、というよくあるパターン。

海の近くの一軒家、いいなあ……。でも災害時には……うーむ……。

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ちなみに、さっきの披露山公園の横は高級住宅街。山の上でも、さすがにここは当然地価もとんでもないのだろう。外車で外界と行き来するのだろう。

 

と、取らぬ狸の皮算用をしているうちに、諸事情で住むタイミングも逃してしまった。

だけどあの海が近くにある生活というのは、本当に素敵だろうな、と思う。

いずれまた、移住計画を立てるかもしれないけれど。

まあ、こうして憧れつつ、たまに遊びに行くくらいが、ちょうどいいのかもしれない。

 

賑やかな夏は過ぎたから、またそのうち、秋の波の音に癒やされに行こう。


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ライブ感想:Lamp Asia Tour 2018 (in 東京)

 昨日、私の大好きなバンド、Lampのライブに行ってまいりました。

 初めてのライブ参加…と言いたいけれど渋谷HMV(2018/06/12)のミニライブは行ったから1.5回目…?まあ、大きなライブは初めてです。わくわく。

 

 会場は鶯谷東京キネマ倶楽部

www.kinema.jp 

 

 鶯谷駅で降りるのは初めてだったんですが、ヤバい街とだけは聞いていまして。

 で、地上に出て0分で、綺麗なお姉さんがおじさんに「バイバ〜イ♡」と手を振ってるのを見て「ああ、ここヤベえわ」と。

 

 それはともかく会場へ。


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 オッシャレ〜

 

 後で知ったのですが、元キャバレーらしいですね、なるほど。

 今回は立ち見ですが、ウェブサイトで見たようにさぞ綺麗なのでは……!


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 まあそうですよね(上階は関係者席でした)

 とはいえ舞台上の装飾とか、いかにも「ショー」という感じで期待も高まります。

 

 と思っていたら、Lampのメンバー、ちゃんと上から出てきてくれてありがとうございます!!(笑)

 

 セトリは染谷さんご本人が公開していらっしゃるので引用。

  

 ということで、ここからは超絶個人的な感想。

 

 

・突然の「渚アラモード」で涙腺決壊寸前

 

 いや、最新アルバムの曲が来るのはそうですし、「さち子」のような(比較的)メジャー曲が来るのはまだ予想できるんですよ。

 まさかでした。大好きな曲の一つであり、なぜかいつも聴く度に無性に胸がきゅううっと締め付けられる曲なので、こう唐突に来られるとね、泣きますよね、うん。まだ4曲目だからなんとか耐えましたが。

 あのキラキラ感と甘さと愛しさの混ざりはライブでも最高ですねえ……

 

 

・「恋は月の蔭に」の雰囲気が最高

 

 永井さんも触れていましたが、会場の雰囲気にバッチリ。

 恥ずかしながら未聴の曲だったのですが、この会場でこういうアダルトな曲を持ってくるとはさすが……と。

 スポットライトが本当に似合うし、ちゃんと後ろの幕も妖しい紫色になっていたし、もう、あの雰囲気で2時間ほどダンスしたいくらいでした。そんなダンスの経験無いですけど()

 

 

・「八月の詩情」で永井さんのキーボードに驚き

 

 へ……弾くんですか……!?と。しかも弾き語り。カッコイイ。

 CDクレジット見たら書いてるのかもしれませんが、そこまであまり見ないタイプなので……。その前のMC(「演奏前に曲名言ったら永井怒るんですよ」→「では八月の詩情」「僕怒ってますよ?(苦笑)」)と合わせて印象的でした。

 

 

・「ソーダ水の想い出」

 

 

 

 ライブ後のサイン会でご本人にもとても良かったとお伝えしましたが、

 

 この曲の香保里さん、神

 

 ほんと何かの特典音源として欲しいです

 

 

・「青い海岸線から」→「君が泣くなら」の繋ぎのとんでもないカッコ良さ

 

 まず「青い海岸線から」の時点で相当気持ちが盛り上がって、からの、意味深なラテン風キーボードソロ。そこからいろんな楽器を乗せてアドリブ的に進んでいくのですが、ここで数分間、バックバンド中心のインストで進める斬新さ……!

「でもこれ何の曲?」と思っていたら、次第に浮かび上がってくる聞き馴染みのある間奏。ぴくっとなったら、そのまま自然な流れで「君が泣くなら」へ。

 これまた大好きな曲ということもあり、感謝感激です。どれくらい好きかというと、「かーすっかっにーたっだっよーうー」って歌いながら春は通勤しているくらい(不審者)

 イントロのフルートが聞けたのも良かったです〜あのフルートがお気に入りな元吹奏楽民なので。

 

 

・ラストは「1998」

 

 ああ、「東京に さよならを」。

 ライブツアーの最後でもありますし。

 平成最後の夏が終わるんだな……なんてことも胸を去来していました。

 

 

・アンコールのラストに「空想夜間飛行」

 

 これまた大好きな曲なので、あーーありがとーーという気持ちで溢れかえる。

 Twitterでも言いましたが、この曲を題材に小説を書いたこともあるくらいなので。そりゃもう本当に嬉しいですよ。(良かったらどうぞ→) 

estar.jp 

 

 しかも、今回『「夜会にて」で始まり「空想夜間飛行」で終わった』んですが、この日のライブ直前、その逆に聴きながら来ていたという偶然……!Lampさんエスパーですか???

 

 他にも「香保里さん何個楽器触ってるの」とか「ベースの人楽しそう」とか「トークのゆるゆるさと曲の精緻さのギャップが」とか色々ありましたが、いや良かったです、本当に良かった。ライブって実はあまり行かない人間なんですが、凄く良かった。

 その後、鶯谷〜上野間を思わず歩いてしまうほど良かった(謎)

 

 気になっていたコードブックも購入できましたし、サインもいただけて、勉強しようと思います(「街は雨降り」をはじめコード進行の素晴らしさよ……!)

 

 これからは秋が深まっていき、涼しい時期に入りますが、Lampの曲があれば大丈夫。どの季節でも我々の強い味方です。

 せっかくの秋だから、そろそろ「A都市の秋」も聴き始めましょうかね。

 また、何度でもLampのファンになってしまいそうです。

 

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ぶらり街歩き[1] さよなら、上大岡


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ビルとお空と京急と。いちばん好きだった景色。

 

その1からいきなり「さよなら」だなんて、自分でもどうかと思うけれど。

街歩きが趣味の自分が、いつかブログに書くなら、この場所からにしようと決めていた。

 

 

少し前、自分は上大岡という街から去った。

就職してすぐに、会社の指示で住み始め、2年半ほどを過ごしてきた土地だ。

 

上大岡は横浜市港南区にある、横浜の副都心的な扱いの場所。

みなとみらいには電車で10分、しかも港南区という名前で、副都心。洒落た海沿いの街かと思いきや、海との間には、あまりにもあまりにも高い丘がそびえ立つ。

 

 

横浜市は、実は坂が多い都市だ。

しかしその中でも、ここの丘は本当に傾斜が激しい。

駅の東側には近辺で一番キツイ坂もあるとのことだ。その角度、なんと16.5度。雪さえ降ればスキーでもできそうだ。

(参考) https://hamarepo.com/story.php?story_id=426



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上大岡の坂道。こんな道がいくつもあるから洒落にならない

 

そんな丘の麓、駅の周りに発達した街が、いわゆる副都心の部分。

京急百貨店、ヤマダ電機、映画館、複合商業施設、……普段の生活に必要十分なものは大方揃っている。

自分もその恩恵に預かった身だ。パソコン、スニーカー、人へのちょっとしたプレゼント……。確かに、便利な街だった。

だけど、便利なだけの街、でもあった。

 

良い点

(1)駅の近くで生活が全て完結できる

(2)京急と地下鉄の2路線が使え、どっちも全車停車駅

(3)少し行けば飲み屋や洒落た店もある

 

これだけ揃っていて何がご不満?と言いたくもなるだろう。

その証拠に、2018年の「関東住みたい街ランキング」では67位、あの大井町や代官山より上と来ている。

https://suumo.jp/edit/sumi_machi/2018/kanto/smp/

 


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駅の西側は飲み屋街。なぜかこの辺りは焼鳥屋が多い

 

正直に言おう。他の土地へのアクセス性だけは本当に素晴らしいと思っている。

つまり、上大岡という街そのものへの魅力が問題。住むうちに、次第に薄れてしまったのだ。

 

まず、無駄に人が多すぎて辟易する。

みんな素直に横浜に出ればいいのに、休日になると人がわんさか。特にファミリーが目立つのがこの街の特徴。飲食店がどこも混む。

商業施設「カミオ」にあるマクドナルドはいつも混んでいるから、一度も入ったことがない。その割に大通り沿いのロッテリアはいつも空いていて、変なの、と思っていた。まあエビバーガーファンの自分はホクホクだけれど。

また、駅周りしか発展していない、という歪さがそれを助長する。駅近にばかり人が密集し、分散されないのだ。戦後に発展させた街なのに、なんでこう半端に作ったのかな、と何度思ったことか。


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上大岡駅前はいつも多くの人が行き交う

 

次に、坂の存在。

暮らし始めた頃は、坂だろうが丘だろうがあちこち歩き倒していた。

何せ初めて来た街。そもそも街歩きが好き。それに仕事のまだ少ない新入社員だ。平日仕事上がりに坂道ランニング、なんてこともしていた。

だけど、そのうち仕事は残業だらけに。疲れ果てた週末、朝起きれば窓の外にそびえているゲレンデのような坂を見て、「ん〜いい天気だな〜今日も登るか〜!」となるだろうか。少なくとも自分はそういう人種では無かった。大人しく駅に足を向け、237円をPASMOで払い桜木町へ行こう。

 
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しばしばコラボをする京急。少し前にはここも「上ラオウ岡」になっていた

 

 

地味に痛いのが、こんなにアクセスが便利に見えてJRが遠い点。

横浜のJRと言えば、東海道線京浜東北線。どちらも主要な街やその近郊の多くを結んでいて、休日に使う頻度は高いけれど、結局横浜駅まで出ないと行けない。ゴミゴミしていてあの駅は好きではないので……。

近辺の似た条件の街に大船や戸塚があるけれど、東海道線があるのはやはりとんでもないメリットだと思う。東京23区へ楽々、鎌倉にも行きやすい。もし住むなら絶対そちらの方がいい。(ただし、車内混雑には目を背けながら。まあ京急上大岡も結局混むけれど)

 

 

ゴタゴタと並べてきたけれど、たぶん、自分が一番虚しかったのが、

こんなに大きい街なのに、ここには何も見るべき場所が無い、多少価値のある場所は行きづらい、という事実だ。

 

歴史的スポットは、「ペリーが来たときに人々が見物した丘」だけ。……なんじゃそりゃ。

眺めは確かに良いけれど、坂の上だし、お墓の前だし(写真自粛)、一度見れば「ふーん」で終わってしまう。

憩いの場所すら少ない。

あるにはある、久良岐公園や、戦没者記念堂の辺りなんかはとても雰囲気が良い。

どれも、見事に坂の上だ。

お隣の弘明寺駅みたいに歴史の深い名刹がある訳でもなく、大岡川の桜がきれいなのはもう少し下流……と、とことん微妙。

歴史の重みや名所も無く、坂に囲まれた街で暮らす休日。残業まみれの平日と合わせれば、「ただ、自分は街の便利さだけに生かされている無に近い存在」。

それを打ち消すために、電車で10分の関内や桜木町、逆方面に30分の逗子や鎌倉や江ノ島をしょっちゅう訪ねていた。名のある街へ、逃げていた。

何せ、アクセスは、良いのだ。


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神奈川県戦没者慰霊道。春は桜の名所。色々配慮して無宗教な作りとのこと

 

だけど、もしかしたら、と思うこともある。

あの街は、ファミリーになら良いのかもしれない。

街がコンパクト。本屋も服屋もなんでもある。映画館もあって、こっそり飲みたいお父さん向けの飲み屋までたくさん。頑張って坂を登れば大きい公園だ。

それに、ファミリーなら街の面白さなんて二の次だ。誰かと過ごす日常がそんなものを覆い隠していく。

結局、1人で長く住み続けるには向かない街だった、というだけなのかもしれない。

 
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この林の向こうが久良岐公園。野球場をはじめ広大な土地からなる。戦争末期か戦後かには人々が避難してきていたとか

 

 

ああ逗子へ引っ越したい、せめて金沢区、なんて思っていたけれど、色々あって、結局今は違う街で生活を始めている。

……どこにいるかは言わないよ。

だけど、暮らしてきた街というものを改めて振り返ると、どうしても愛憎ない混ぜにして見てしまうんだな、と気が付いた。

それは、大した仕事の実績もなく、独身として孤独な時間を一緒に過ごしていた、家族のような存在だからかもしれない。

 

色々文句は言ったけれど、いい記憶だってたくさんある。

入社1年目の春、駅の東側に見かけたきれいな桜に心躍らせたこと。

初めて坂を登りきった日、圧倒的な夜景に見惚れてしまったこと。

トンネルの中にくぐっていく京急を見下ろしながらランニングしたこと。

「赤い風船」で友人たちと夜中まで遊び倒したこと。

ある日の朝、ふと電車から富士山らしき影が見えたこと。

 

いつだって、あの街はそこにいた。

客観的に、冷静に見ることなんて、出来やしないのだ。


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上大岡の住宅街。奥に見えるのは、今思えばたぶん富士山

 
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赤い風船は複合遊戯施設。ゲーセンもパチンコもボーリングもある。バッティングセンターは安いけれど、マシンが古くて時々ビーンボールも投げてくるのはご愛嬌

 


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京急百貨店の屋上。景色はそこそこだけれど、広々として知る人ぞ知る憩いの場。楽器が練習できそうだと気付いたのは引っ越し当日だった

 

 

引っ越した今、もうあの街を訪れることはそうそう無いだろうな、と思う。

だって、何も無い街だ。

友人と会うのだって、横浜まで出た方が店の選択肢も増えて絶対に良い。

 

 

だけどもし、何かの機会に訪れることがあるとしたら。

そのときまでには、街に頼らなくてもいい自分になっていたい。

うだうだ言い訳をしないでいい、何者かとしての自分になって、堂々とあの街へ挨拶をしにいこうじゃないか。

  

 

だから、いつか来るその日まで。

さよなら、上大岡。


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本レビュー:「たのしい路線図」、楽しく愛でる

久々の更新です〜

この間記事が突然拾われたり色々ありましたが、やっぱり好きだと思ったものは残しておくべきだな〜となったことで再開します。

 

 

この前、酔っ払った勢いでつい買ってしまって(これだから酔っ払いは)とセルフツッコミした

「たのしい路線図」

http://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=37881

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いや、本当に凄かったあのときの勢い。全く知らない本だったのに、本屋で見かけた瞬間バッッ!って感じで手に取ってましたからね。バッッて。

 

自分は密かに路線図好き(詳しくはないですけど)なんですが、常に思われがちなのが「路線図好き=鉄道マニア」。

だけどそうじゃないんだよなあ、鉄道は「のぞみ、ひかり、こだまの速さ順を大学3年生くらいまで知らなかった」レベルなので(単なる無知)

と思っていたら、この本の序文にもまさにこういうことが。


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わかる〜〜

 

そうなんですよね、単にデザインを楽しんでいるという節がある。愛でるというのは言い得て妙。

ただ、自分はそこに加えて、「繋がっていく」という感覚がそもそも好きで、路線図好きにも結びついている気がします。

数式もコード進行も小説の人間関係も、自分が好きなのは「異なるものが有機的に繋がること」だから。

 

さて、本の中身。

期待通り?本当に日本全国津々浦々の路線図で溢れています。

さながら美術館の展覧会を訪れているような気分。


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こんな感じで。

育ってきた地域の路線図とか、何度も見てきた路線図でも、意外な発見があって面白い。JR西日本のアルファベットのラベリングとか気付いていなかった。

 

気に入った路線図をいくつか。


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横浜在住時からなんとなく好きだった相鉄。

スタイリッシュで良いですね〜

 


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JR東日本の新幹線路線図。

色合いが鮮やかで素敵〜。

 


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土佐くろしお鉄道(ごめん・なりはり線)

かっちょいい〜

 

 

……今回、何の解説もしてないですね。

でもいいんです、これ、愛でるための本なので。

 

他にもロンドンの路線図の歴史とか、大江戸線を丸く描いたきっかけとか、面白い情報が充実しています。

特にデザイン関連の方とか、眺めていたら何かピンと来るものがあるのでは??と思います。

 

最近はICカードの普及で切符を買うことも減りましたし、乗り換えもスマホを頼ることが増えていると思います。

でも、たまにはあちこちにある路線図を眺めてみるのも、いいかもしれませんね。通勤通学だって、少し楽しくなるかも。

祇園祭を語れない京都の大学生はモグリ

 なんて挑戦的なタイトルをつけましたが別に誰かにケンカを売るつもりは毛頭ありません。あんまり深く気に留めないでね☆

 

 今日、なんとなーく逗子(神奈川県)を散歩していました。

 この時期の逗子=逗子海岸で海水浴が定番ですが、泳ぐ気も体を焼く気も全くない自分は、誰もいない展望台に行って海と江ノ島を眺めていました()

 まあそれはどうでもいいとして。ちょうどその途中でローカルな感じのお祭りにかち合いまして、ふと気がついたんです。

 7/15。今日って、祇園祭宵山の日やん。

 

 

 祇園祭

 ご存知の通り、京都三大祭の1つです(他は葵祭時代祭)。

 実は7月いっぱいに渡って行事が行われているのですが、一番有名というか普段耳目に入るのは7/15の宵山とその前後。

 四条通の付近という京都の一等地全てを覆う、大々的なお祭りの日です。

 

 三大祭の他と異なるのは、やはりその「場所」でしょう。

 確かに葵祭時代祭も大々的なのですが、どちらも中心部からやや北寄りがメインです。

 あのビル街の中心を山鉾が進んだり、広い道路沿いに出店が並んでいたり、なんて状況はちょっと普段とのギャップが大きすぎるんですよね。

 

 一応自分も京都の大学に4年間在籍していたので、毎年参加していました。

 友達と行ったり、当時の恋人と行ったり、遊びに来た家族と行ったり。

 

 今、京都にいて祇園祭を(特に宵山前後を)知らない大学生には、悪いことを言わないからこれだけはぜひ行ってほしい。

 

 全部が違った思い出なんですよね。

 友達と行ったときは、ビールを飲み明かしながら、偶然出会った友人カップルを冷やかしたり。

 恋人と行ったときは、行列をかき分けながら山鉾を見ました。はぐれないように、付き合いたてだったから確か初めて、手を繋いだり(きゃー)。

 家族と行ったときは……あんまり言うこと無いな

 山鉾の引き回しは凄かったです(逃げた)

 

 

 だけど、一番の思い出は、大学生協で申し込んだアルバイト。

 

 そう、祭礼行列の一員として、ぐるぐる回るアレの役です。

 当時働く意欲というものが欠如しまくっていた模範的自堕落大学生な私が、京都に来たらやりたいと思っていた唯一のバイトでした。

 

 まだうら若き1回生の頃。今からなんと10年ほど前。

 だけど、鮮明に覚えています。

 

 現場につくと、まず食事が支給されたこと。あー支給って書いてたしな、と思ったらお赤飯を渡されてMatsuriを感じたこと。

 そのあとブルーシートの上で衣装に着替えたこと。白装束に烏帽子の自分を思わず自撮りしたこと。

 4人で担ぐ小さい神輿のようなものを担当したこと。1人で参加したから若干不安だったけれど、他の3人が凄くいい人で楽しかったこと。1年生の子はなんと同じ大学同じ学部。4年生で同じ大学の先輩は「最後の思い出にね」と言っていたこと。違う大学の2年生の人がいいキャラだけど若干気まずそうだったこと。

 

 そして、京都の街のど真ん中を、自分たちだけが闊歩していること。

 

 オフィスビルの間、何車線もある広い道の中央を、ゆっくりと歩いていく。

 沿道には多くの見物客。指をさしたり、写真を撮ったり、こちらが注目されている。

 空には夜が広がり、目の前には非日常の行列が続いている。

 

 ああ、この自由な気持ちを、一生忘れたくないな、と。

 あのときほど、清々しい快感を覚えたことは、一度もありません。

 

 

 たった数回しか祭りを経験していない、よそ者の自分。歴史的なことも、細かい行事のことも、正直ほとんど分かっていないと思います。

 それでも、まだまだ語れることはいっぱいあります。特に宵山――あのいつまでも、どこまでも続きそうな、幻のような夜を。

 作家の森見登美彦さんが「宵山万華鏡」という素晴らしい作品を書かれていますが、まさにあの本のように、祇園祭の時期の京都は万華鏡じみた幻影の世界となるのです。

 しかも、どの人の心にも残るように、オーダーメイドの鮮烈な絵柄を浮かべて。

 

 

 大学を出てからは、すっかり行く機会も無くなってしまいました。

 それでもなお、7月と祇園祭という存在が、切り離されずに自分の中にあり続ける。

 しかも時間が経つにつれて、なぜか一層記憶が浮かび上がってくる、不思議な祭。

 ……それは、元が霞がかった姿をしているからかな、と思ったり。

 

 じゃあ、宵山という自由な夜を、今の自分が体験したらどう記憶に残るのか?

 そんな興味が湧いてきたので、(今年は無理としても)また是非訪れたいものです。

 また、何か語れるような記憶を得られるなら、嬉しいことです。

楽曲レビュー:たなばた(酒井格) 〜7番目の夜、星に願って

 ここのところ、地震、大雨、洪水、大変なことになっている日本列島。

 先程も関東地方で大きめの地震がありましたね……。

 どうか一刻も早い平穏の日々を、と思わずにはいられません。

 

 

 そして今日は7/7、七夕。

 ……天気も悪い所が多く、星空は望むべくもない、という感じだとは思いますが。街のあちこちに飾っている短冊が少しむなしく見えてしまう。かなしい。

 (というか確か7/7って比較的雨が多い日なんですよね確か…。まあ旧暦の七夕は8月なので、という話なのでしょうが)

 

 だけど、気分だけでも感じたいもの。

 私は吹奏楽をやっていた身なのですが、毎年、7/7の夜に聴いている曲があります。

 

  The Seventh Night Of July [たなばた] 作曲:酒井格

www.youtube.com 

 (参考演奏はとりあえずプロのもので。普段は尚美の音源を聴いています)

 

 

 いや、もう吹奏楽やっている人間には紹介することもないくらいメジャーな楽曲ですね。(レビュー:完)

 

 

 かいつまんで紹介すると、

 酒井格さんは、日本を代表する吹奏楽作曲家。春の甲子園の入場行進曲(J-POPとか流れてますよね)は毎年この人がアレンジをしている、というくらいに凄いお方。

 本楽曲は、その彼が高校生のときに作った、文字通りの処女作。

 そのため所々に(オーケストレーションなど)不慣れさが滲んでいますが、それを物ともしない美しい旋律と劇的な展開が魅力的な楽曲です。

 

 詳しいことは、本人が非常に詳細に語ってくださっているので、そちらを参考に......と思ったらリンク切れしてる!?なんとまあ……

 (一応、楽曲まとめのページだけリンク……)

http://ismusic.road.jp/works/welcome.html#wind

 

 

 ところで、なんでこの楽曲がこんなに親しまれているんだろう?と改めて。

 実際、演奏効果は特段高いという訳ではありません。確かにキャッチーで聴き映えはしますが、やや響かせにくい所があるし、結構どのパートも体力が必要だし、ソロは簡単ではないのにミスると顰蹙だし……。

 まあ、今更という部分ではありますが、せっかくなのでまとめてみました。

 

 

1. どの楽器にも魅せ場がある

 

 オプション楽器(という言い方もアレですが…)を除いて、どのセクションにもソロorソリが存在している。

 これ、結構珍しいことなんですよね。まあ、20分超えの交響曲とかならどのパートにもソロがある曲は多いのですが、吹奏楽という世界で長い曲は割と希少な存在。

 特に「たなばた」と同じように学生人気が高い曲なんかだと、パート間格差があるのはままあること。

 私はクラリネット出身なのでそこまで感じたことはないのですが、某ライ○キーの人気曲のトロンボーン譜を見たときは「図形かな?」と思いました(7,8割ほど同じリズム打ち)。

 また、サックスやトランペットは花形なので、ソロを沢山経験できますが、ユーフォやチューバなどでは滅多に機会がない。また、金管が目立つ曲は木管が不遇、木管が目立つ曲は金管が暇、などもよく起こる現象。だから選曲で揉めて、揉めて、、、(遠い目)

 と、まあ、こういう曲があれば、みんな見せ場があってハッピーなのです。

 

 

2. 初心者でもギリギリなんとかなり、熟練者も楽しめる難易度

 

 吹奏楽は学校の部活動が主体の世界です(現状は)。

 そうなると、本当の初心者でも半年や1年でコンクールや演奏会に出なければならない。選曲する立場の人は頭を悩ませます。あまりに難しい曲だと初心者には無理だし、簡単すぎても小学生からやっている子にはタイクツだし……。

 確かに、前述の通り、体力が必要かつ部分的に難しい曲です。だけど、例えばクラリネット3rdなんかだと音域も比較的マシで、上級生にカバーしてもらいながらなんとかできるレベルです。

 その一方で、1.で書いた通りに見せ所が多く、それが特に音色・表現面という経験が物を言う部分なので、ある程度の熟練者でも楽しく演奏ができます。

 そういったバランスが取れている。おかげで、社会人団体=経験者の集まりでも「気軽に楽しめる曲」として親しまれているのです。

 ……それに、アルヴァマーを始め、あちこちの「遊び心」は経験者の方が分かりますしね(笑)

 

 

3. 伸びやかな歌心、挑戦的なコード

 

 そうはいっても、一番の魅力の一つは「キャッチーな旋律」でしょう。

 「キャッチーさ」って、なんでしょう。 

 基本的にメロディーは「歌系」「踊り系」に分けられると思うのですが、この曲は間違いなくほとんどが「歌系」。

 「歌系」の旋律のキモは「二度進行」と「飛ぶ所」のバランスだと(個人的に)思っています。

 この曲はそれが非常に良い。

 第1主題、最初の8小節を例に取ると、最初の「B♭→E♭」、3小節目の「B♭→G」しか「飛び」は無く、他は全部「二度進行」が主体です。

 しかも2箇所の「飛び」はいずれも2部音符=「エネルギーを貯めて飛べる」。一方で「二度進行」は8部音符が主体=「旋律の流れを作る」。

 この絶妙なバランスが、「あっ、キャッチーだ」「歌いやすい」という感覚を生み出しているのだと思います。

 

 一方、コードについて。

 基本的にはE♭。この時点で「フラット系の得意な吹奏楽器に合う」かつ「甘い音楽に合う」調性、という適役なのですが。

 あ、E♭の曲=甘いというのは、「ショパンの『ノクターン』」「エルガーの『ニムロッド』」などから分かるかと思います。あえてそういう例だけ挙げています。

 この曲の良いところ。例えば有名なサックスソロの最初のコード、いきなりMaj7から始まります。ジャズの常套句のようなコードなので、「おしゃれ〜」という感覚になること請け合いです。

 また、中間部〜再現部の部分転調の繰り返しは、彩りながらマンネリ打破と緊張感を作っていますし(なんとなく、カラフルな花火を思い浮かべます)。

 何より個人的なツボは、全音音階。

 吹奏楽オリジナルでは非常に珍しい。というか吹奏楽やっていて、オケ編曲以外ではNSBの「ジュ・トゥ・ヴ」(サティ作曲、宮川彬良編曲)でしか見た記憶がありません。

 ユーフォソロ直前の地味な部分ですが、いや個人の話になってすみませんが、自分はこの部分で全音音階の基本的な使い方を覚えました。ああそう使えば効果的なのか!!!と。

 ……気になった方はスコア見てください(投げやり)

 

 こういう作曲者の「挑戦」が、「新鮮」「鮮烈」となり、聴いた者の心を掴んでしまうのです。

 

 

4. そして、結局みんなストーリーを求めている。

 

 うだうだ書いてきましたが、これに尽きるんですよね、結局。

 

 高校生が書いた曲。

 きっと同級生や、気になる異性を想像しながら書かれた曲。

 「たなばた」という、皆が知っているロマンティックな題材。

 織姫と彦星、と称されるA.Sax & Euph.のソロ。

 木管の連符でさえ、流星群や天の川の煌めきのようだと語られる。

 

 これ以上無いほどに、物語に満ちている。だから演奏したくなる。

 みんなが楽しめて、みんなで楽しめる、願いを叶えてくれる音楽を。

 

 そして、それが広く共有され、また次の代へと繋がっていき、演奏され続ける。

 

 

 この入れ替わり立ち替わりが激しい吹奏楽という世界で、キャッチーで楽しいだけの曲では長く生き残ることはできません。

 それだけの理由を持っているのが、この「たなばた」なんだと思います。

 

 

 かくいう自分も、吹奏楽を始めてから十数年。

 そのときから毎年必ず、7/7に「たなばた」を聴いています。

 きっと、こんな風にあれこれ理屈を並べている自分も、この曲に物語を求めているのでしょう。

 

 

 素敵な出会いを。多くの祈りを。

 みんなの耳にも、夜空の物語を。

 7番目の夜、雲の向こうの夜空に向かって。

映画レビュー:「空飛ぶタイヤ」人の命、見えない敵

久しぶりの投稿は今日観た映画について。

 

空飛ぶタイヤ

http://soratobu-movie.jp/

 

池井戸潤さん原作、初の映画化。

といっただけで「まあ外さないだろう」という感じなんですが、ちょっと売り出し方が微妙で…(カッコいいポスターにゴテゴテと色々書いたりして…)、若干の不安はあるにはありました。

ですが、映画として非常に真摯な造り。作品の強度と役者の強度も相まって、見ごたえのある映像空間でした。

 

 

池井戸作品らしく、「勧善懲悪」「大逆転劇」が本作の大筋なんですが、正直に言えば「スカッとした!!!!!」みたいなのを求めに行くと結構苦しい作品だ……と思いました。

(まあそもそも、池井戸作品の密度を2時間に纏めた時点でしんどいのは当たり前なのですが、)

そのしんどさの理由の1つが、人命が関わっているという点。

本作は「タイヤ脱輪に巻き込まれた死亡事故の原因究明」という大筋なのですが、死亡事故という出来事に端を発しているため、ありがちな「大企業とのバトル」「銀行マンとのバトル」に一層の重みが増します。

今までも、映像作品で言えば例えば「下町ロケット」の「ガウディ計画編」で人命が奪われるという出来事がありました。しかしそれは100%敵サイド(この言い方が正しいかはともかく)の落ち度。

今回は、主人公サイドの赤松運送が「悪役」と疑われている。

それにより、「遺族とのバトル」という救いの無い状況が生まれてしまう。誤解だとわかっているからこそ、余計に精神的にキツい。特に四十九日の場面における、遺族の悲痛な叫びには胸を打たれました。

「家に帰っても家族がいない、そのことを自分の立場で考えたことがあるのか!!」

……こういう旨のセリフだったと思います。これにはハッとさせられました。

確かに、これだけ死亡事故や事件が巷に溢れていても、「身近な人間の命が奪われるという現実」を想像することは、非常に難しい。それが、加害側(かもしれない)という状況にあってさえ……。

もちろん、最終的に事件そのものや遺族とのわだかまりは解決へと進んでいくのですが、最後のシーンまで「人の命が奪われた」ということを意識させられる演出になっていて、本当に作り手の真摯さに拍手を贈りたい。

 

 

他に興味深かったのが、徹底して「見えない相手」と闘い続ける話だったこと。

そのテーマ自体は隠されているわけでもなく、主人公の妻が「子供の学校の裏サイト」と闘っていた場面でセリフ的に明示されるのですが。

フィクションでこういう話だと、最後は「社長v.s.社長のガチンコ頂上決戦」になりがち(※個人の意見)です。しかし主人公側(赤松運送)が会った、いや会話した敵側(ホープ自動車)の最高役職は「課長」止まり。しかも虚偽や隠蔽の当事者ですらない、という、振り返ってみれば驚きの構成。

もっと言えば、ホープ自動車側の主人公サイド(ディーン・フジオカ)ですらそうです。隠蔽工作をした品質保証部には度々アクセスしているものの、諸悪の根源である取締役とは、すれ違い際の一度しか対面していない。

「銀行」「遺族」「不満を持つ部下」「相手の販売部の課長」あるいは「自分の会社の部長や同僚」という目に見える相手は、事件の原因では無い。

「事故の本当の原因」「大企業の中枢」という目に見えない相手が、真相。

だからこそ、このストーリーはますます苦しい。

そうそう、日常でも、得てして「見えない敵」の方が精神的に苦しめてくるものなんだよ……と。

 

 

そう言えば、事故の原因、という部分で。

一応原因はセリフで明かされるのですが、当然専門用語が出てきます。池井戸原作のテレビドラマではしばしばテロップや図解が出てくる場面ですが、この映画にはそれが一切無かった。

これは一つの英断だったな、と思います。

ドラマより時間的制約が厳しいこと、また観客がみな没頭して世界観に入り込んでいることを思えば、作品の流れを乱さないためのこの選択は正しかった。ある程度理解してくれると観客を信頼している部分もあるのかな?映画ならではですね。

もちろん、具体的に分からなくても(かくいう自分もニュアンスしか分からなかった)、雰囲気が充分伝わるという作りにはなっており、とても丁寧です。

 

 

他にも「ものづくりの結果は人命と繋がってしまう」ということを意識したり(一応自分も理系技術者の端くれなので)、「会社を辞めるということ」「社長と社員との距離」について考えたり、様々なことが胸の中を去来しております。

 

 

いやー、面白いだろうとは思っていましたが、想像のさらに上でした。

働くということ、そして命について、真面目に思考するいいきっかけになりました。

ちょうど今後のキャリアパスについていろいろ考えている時期だったので、良いタイミングで見ることができたな、と思っています。

 

 

(P.S.)

長瀬とディーンのラストシーン、カッコ良すぎません??

からのサザンのED曲の流れがあまりにカッコ良すぎません???

それを体感できただけでも価値がありましたので是非。いやマジで